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第一話 出会い

2024年2月11日
読了時間: 9分



偉大なる航路、グランドライン。

ロマンあふれる冒険のそばにいつも死があるこの海域に北の海から入り、まだそれほど経っていないハートの海賊団は、次の島に進む為のログをたどる中幾度と降りかかる悪天候によって予定よりも大幅に時間を要し、あらゆる物資が底をつき補給が急がれる状態に陥っていた。

だが幸いなことに目の前にはログが指した島が見え、その姿を目にして安堵のため息をつく航海士と、彼の報告を聞きつつ頷いて小さく息をつく船長の号令でハートの海賊団の船、潜水艇型の『ポーラータング号』はそのたどり着いた島の岸壁に錨を下し、急いでタラップを伸ばした。


「ギリギリセーフってやつだな…。とりあえず補給できる場所探しに偵察いってきます!」

「おれもー!」


正しく降りた錨に動きを止められ、静かな波に揺られる船の甲板からタラップに飛び出しながらそう声を上げたのは、『PENGUIN』と文字の入った帽子をかぶったクルーと、派手な色合いのキャスケット帽をかぶった男。ペンギン帽子の男の名はペンギン。キャスケット帽の男の名はシャチ。彼らはハートの海賊団結成時からのクルーであり、腕っぷしは右肩上がりの男たち…というのが本人談。そんな彼らを見てうなずき、陸を睨みつけるように眺めているのはハートの海賊団の船長で医者でもある男、トラファルガー・ローだった。


「キャプテン、かわいいメス熊いるかな。」


甲板からその様子を眺めそうぼやくのは島に降りて陸を駆けていくペンギンとシャチを見ている白くまのような姿をしたクルー・ベポ。彼もまたこの海賊団結成時のメンバーの一人でこの船の航海士だ。ずっと気を張り詰めていたからか、船の欄干にもたれかかってだらけていた。他にもまだクルーたちは居るのだが、彼らは下船に向けてせわしなく動いているのでいずれ紹介しよう。

ペンギンとシャチは陸を高揚する気持ちが隠せない様子で歩き、しばらくすると船からも見える距離にある森の中に入っていった。それを見送ったローはベポの言葉に「秋島に白くまのミンクは難しいだろうな。」と返し、次の瞬間にはその場から文字通り消えていた。代わりにカランと甲板に小石が転がる。


「え!キャプテン!」


驚くベポが慌てて船の甲板から身を乗り出し陸の方向を見る。甲板から姿を消したローはいつの間にか陸にいた。


「陸に上がっただけだ。」

「二人を待とうよ!危ないよ!」

「誰に言ってんだ。」


彼は刀こそ持っているが軽装で、そのままペンギンとシャチが進んだ方向に歩いていく。その姿に慌てたベポは甲板から陸に飛び降りるとローの隣に駆け寄った。


「前の島で襲われたじゃないかー!」

「勝ったじゃねェか。」


ローはそう言ってベポを睨んだ。睨まれたベポは「すみません。」と影を背負い謝罪の言葉を口にすると、その間にもすたすたと歩いていくローを見て慌てて立ち直り隣に並んだ。


「すぐに帰ってくると思うよ?」

「…だといいが。どうも静かすぎる。」


ローがそう言った瞬間、彼の目の前にペンギンとシャチが吹き飛ばされてきた。ローは驚きながらも一番近くにいたシャチをつかみ起こし、ベポを横目で確認しながら抜刀すると、二人が吹き飛ばされてきた方向にある森を睨んだ。


「きゃ、キャプテン。」


上がった息を隠すこともできないペンギンが身体を起こしながらローに何かを告げようとしたが、森の中から響いた声に阻まれた。


「──ふむ、海賊か。」


声と共に現れたのは仮面をつけ長いひげを持つ男で、彼は「それに…ふむ…君たちなら上陸してかまわん。もてなそう。」そう続けると森の中に戻っていった。予期せぬ邂逅と突然の歓迎に顔をしかめるローと、全身を強めに打ったらしいシャチの介抱をしていたベポは混乱した様子でローと森の方向へと歩く男を交互に見ている。


「何があった。」


ローは森の中に消える男の背中を睨みながら、なんとか起き上がったペンギンに問いかけた。


「あ、あの森の中に小屋があって………。近づいたら『海軍か?』って聞かれてさ。どう答えてたらいいか迷って、気がついたらぶっ飛ばされた。」


そう言って擦りむいた個所を確認していた。どうやら大きな怪我は内容でローはこっそりと息を吐く。


「キャプテン、もてなすって…。」


シャチに怪我がないことを確認したベポは少し弱弱しい声でローにそう聞いた。怪我はなくとも打った身体がいたい様子のシャチは「キャプテンおれの心配は?」とべそをかいているようだったがローは無視している。


「……どうします?」


ペンギンはローにそう伺う。彼の声は困惑していた。


「海賊をもてなすね…。君らってのは…なんなのか。確かめるためには行くしかねえか。」


ローはそう言ってベポの手首にあるログポースを見てため息をついた。ベポは彼にならいログポースを見てと困った顔で口を開く。


「なんだか怖いけど、島の情報もほしいもんなァ。」

「ああ。島に街か村か…あるいはないのかだけでも聞き出すか。まあ、これ以上は油断するなよ。」


ローがそう言うと、ペンギンとシャチはしっかりとうなずいた。


◇


四人が森の中に入ると髭の仮面男は少し先のところで待っていた。


「最近の新聞で見ない顔だったものでな。」


男はローを見てそう言うとそれ以上の言葉を続けることなく森の奥に向かって進んでいく。その言葉にペンギン、シャチ、ベポは『ローが海賊として有名ではない』と言われたと思いムッとした顔になると口をがっと開いた。


「見ない顔って!!」

「失礼だ!」

「懸賞金付いてんだぞ!北の海では悪名高いんだぞ!!」

「そうだそうだ!」

「…黙れお前ら。」


ブーブー言い出すクルーにローはため息をつくと、クルー達の声を気にもしていないらしい男の後を追う。進む道は獣道より少し整備されている程度でお世辞にも歩きやすいとは言えず、おそらく髭の仮面男以外使っていないのだろうとローは推測した。

そのままローは黙って、クルーはにぎやかに、髭の仮面男の後を進むと小屋にしては立派な造りをした建物が見えてきた。


「おい、シャチ。あれがぶっ飛ばされるに前に見た小屋か?」


ローはそう確認すると、シャチは「そうですー!でもノックするまでたどり着けず、で、ここがペンギンの返答が遅いからあのおっさんに先にぶっ飛ばされた現場です。」と言ってペンギンと取っ組み合いに発展していた。


「ワシの家だ。」


髭の仮面男はそう言って、「まあ入れ。」と続けると小屋の中に入ってしまった。扉は開け放たれたまま。どう動くべきか、ローもクルーも考えあぐねていると、男が顔だけを扉から出し、「茶ぐらい出せる。」と言って顔をひっこめた。


「……はァ。……行くぞ。」

「でも、キャプテン。」

「罠だったり…。」

「…だとしたら罠にかかる前に排除すればいい。」

クルーの不満をローはそう言って蓋をし、手に持つ刀を軽く鳴らした。


◇


髭の仮面男の家の中は殺風景なもので、だがロー達が今までは見たことのない雰囲気にペンギンとシャチ、そしてベポは興味深げにきょろきょろと中を見回していた。

天井はとても高く、屋根の骨組みが見えたままで、小屋の床、その三分の一は地面を固めたようになっている。残りは木の板が敷き詰められていて、一部には植物で作られた敷物が敷いてあった。木の床の中央には床に直接座って使う様式の四角い机。その中央は四角く切り抜かれていて、中には灰が敷き詰められている。灰の上では焚き木が組まれており、そこには火が着いていた。火の上には屋根から吊り下げられた先端がかぎ状なった木の棒と、そこにひっかけられた鍋が火の上にぶら下がっている。

鍋からは食欲をそそる香りと湯気が立ち上っていて、その湯気の香りに気が付いたベポがおなかを鳴らした。ため息交じりにローに睨まれ「すいません…」と影を背負いつつしょんぼりと謝っていた。

そんなベポを見た髭の仮面男は笑い、「ははは。図体のわりに打たれ弱いクマだな。」と言うとベポはさらに、「打たれ弱くてすみません…。」と身体ごと小さくなってしまい、ペンギンとシャチが「腹鳴るのは仕方がねぇよ。」「おれ達朝ごはん食べてないしさ。」と慰めていた。

そんな様子を気にすることもなく、ローはまだ小屋の中の様子を観察していて、木の板の床の奥の方にはわらが敷き詰められているところがあり、わらの上には大型の獣の毛皮が二つ敷かれていることに気が付いた。


(ふたり暮らしか…?)

「朝飯を食っとらんのか?もう昼も過ぎたぞ?……そうさな。なら、飯食っていくといい。丁度めしにしようと思っていたところだ。板に上がるとき靴は脱いでくれ。」


ローの思考をよそに髭の仮面男はそう言って自分の靴を脱ぐと土の床と木の床の境目に置く。ローは一瞬だけ考えたがそれに倣うとクルーたちも同じように置いた。その様子を見守っていたクルー全員も木の板に上がると、髭の仮面男は目線でテーブルを指す。ローは刀を肩から下ろすと、男に従って机の前にどかりと座り、刀をすぐ近くに置いた。クルーも緊張を緩めることはせず同じようする。


「ふむ………。」


髭の仮面男は口を開き、その豊かなひげを撫でて口を開いた。


「………初対面の者に緊張を解け、など言えんのは百も承知であり、またそのような言葉一つで緊張を解くようなやからは好かん…。」


男の言葉にローは沈黙で返す。髭の仮面男は再び「ふむ。」と言うとおもむろに机の上にあった木のレードルに手を伸ばし、火にかかる鍋をの中身を混ぜた。


「だが、少々見誤っていたのかもしれんな、ワシは。」


男はかき混ぜる手をとめると鍋の縁でカンっとレードルに付いた汁気を切る。鋭い音で家の空気は一気に張り詰め、ハートの海賊団の面々の視線は髭の仮面男に向けられた。


「なにをだ。」


口を開いたのはペンギン。その言葉は針の様で今でも男を刺さんばかり。だが男は「ふむ。」と再び髭に触れるだけで口を開いた。


「…ここはなかなか情報がはいらん。手配書の更新をすぐに確認できん。故に、君らの名も悪名も届くのは少し遅い。懸賞金の額が上がったのがいつか…何故そうなったのか、もな。」


その言葉にシャチをベポは腰を上げた。


「ああ、勘違いなさるな。ワシのほうは海賊の行く先を基本的には邪魔せんよ。金も興味ない。ただ、あやつがどう思うかまでは…。」


あやつ。そう聞いたローは、この男のつかめない言葉ともう一人いるのかを問いただすべく側に置いた鬼哭に手を伸ばしたが、その動きを突然現れた刃と言葉に止められた。


「──死の外科医、トラファルガー・ローだな。」


新しく聞いた声とローの首元に気配無くひたりと当てられた刃に止まった小屋の中の時間。一人だけ男が「ふむ。」とため息のような声出した。




第三話 ある病の話

夜に偵察したのは気配が分かりやすいから。そう話すナギを先頭にローはベポ、ペンギン、シャチと共に海岸沿いを歩いていた。 ナギは腰に赤く大きく平べったい木の箱のような形をした鞘を持つ刀を佩いている。同じようにローもクルーもそれぞれ武装しているが、そうするように言ってきたのはナギ...

 
 
 
第二話 指針

「まあ、孫だ。」 ざしゅ。 ぐちゃ。 べちゃ。 妙な音が、例えるなら肉を切り裂き、そこから飛び散る音が響く小屋の中、ローたちはまだそこにいた。 ほんの数刻前はこの小屋に新しく表れたによって一触即発だったのだが、いまはローの疲れた顔、ベポの引きつった顔、そして妙な音を奏でるの...

 
 
 

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